ツマベニチョウ
ツマベニチョウ♂ (2009年10月14日 沖縄県石垣市) |
秋の石垣島を訪れた。 実に31年ぶりの再訪である。昭和53年に訪れた時は夕方那覇港 を出航、翌朝石垣港に着いた。 島には港近くに旅館が1軒あるきりで、あとは民宿まがいの宿があ っただけであった。 南国ブームに乗って最近の島はものすごく発展している。 あちこちに高層のホテルが並び、夜街に食事に出ると、そこここに 客引きの女性がたむろしている。 蝶の天国の林道も今は舗装がしっかりされており、昔のように蝶の 集団吸水の風景も見られなくなったようだ。 それでも南国を象徴するツマベニチョウが優美に舞っていた。 10月の石垣は雨模様だったが、ツマベニチョウをあちこちで見て 心安らぐのだった。 |
ツマベニチョウ 2022年11月12日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ♂ (2009年10月14日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ♂ (2009年10月12日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ♂ (2009年10月12日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ♂ (2009年10月12日 沖縄県石垣市) |
前翅を飾るオレンジ色が優美である。 シロチョウ科では日本産の中でもっとも大きく、それだけに飛翔 力も強い。ハイビスカスなどの花によく訪れているが、物音など に反応して飛び立つと、みるみる高い空に飛んで行く。 人の気配にとても敏感で、カメラを持って近づこうとすると、すぐ 飛び去ってしまう。 沖縄や石垣島など琉球、八重山諸島では普通に見られ、鹿児島 など九州南部にも分布する。 鹿児島の城山に登ったとき、展望台からうっすらと煙を吐く桜島 の素晴らしい景色に見惚れていると、この蝶が目の前を横切って いった。 錦江湾をバックに悠然と飛ぶツマベニチョウのオレンジが目に染 みるようでその情景は懐かしい。 |
ツマベニチョウ (2007年10月31日 沖縄県那覇市) |
ツマベニチョウ (2007年10月31日 沖縄県那覇市) |
その蝶を見た時、なにか”幻”を見ているような感じに襲わ れた。 遠くから見た時、ゆったりと白い蝶が飛んでいるように見え た。「オオゴマダラかな?」と思った。 でも、飛び方がどうも違う。 植え込みの花に舞い降りてきて、ゆっくりと飛ぶ。けれど、 植え込みの向こう側はガケで、下手をすると転落の危険が ある。 「こっちに来い!」 カメラを持ってうろうろとしていると、そんな気持ちを察してく れたのか、白い蝶はゆっくりとこちらに飛んできた。 よく見ると、オオゴマダラではなくツマベニチョウではないか。 橙色の紋が消えた白いツマベニだ。 震える思いでシャッターを切った。 翅はいくらか古くなっているが、こすれて橙色の紋が消失し たとは思えない。何かの変異で白化型が生まれたと考えた 方がいいのではないだろうか。 この日はシャッターチャンスはなかったが、どきっとするほど 真っ白なナガサキアゲハの飛翔にも出会った。 曇り空。那覇から羽田へ帰る直前の2007年10月31日午 後1時50分のことだった。 数カット写真を撮ると、白いツマベニはまた、悠然と姿を消し て行った。 |
ツマベニチョウ♀ (2009年11月14日 沖縄県南城市) |
こどもの頃、地理が得意だった。 北海道から九州までいろいろな地名が頭に入っていた。そのほと んどは蝶の図鑑から仕入れたものだった。 佐多岬という名前は今でも鮮明に記憶に残っている。 ツマベニチョウの産地として図鑑に書いてあったのである。 そこに行ってツマベニチョウを採集してみたいと思って、毎日のよ うに図鑑を眺めていた。 まだ、沖縄が返還されるずーっと前で、日本の一番南が鹿児島県 だったのだ。 まもなく図鑑を見る機会もなくなり、蝶の世界からも離れていた。 秋が深まる頃、沖縄に出かけた。 南部の戦跡の近くでツマベニチョウが優雅に舞っていた。 佐多岬よりずっと南の沖縄で、この蝶は戦争で亡くなった人たち を悼むように花々を訪れ、青空高く舞って行くのだった。 |
ツマベニチョウ♀ (2009年11月14日 沖縄県南城市) |
ツマベニチョウ♀ (2009年11月14日 沖縄県南城市) |
ツマベニチョウ♂ (2007年10月30日 沖縄県南城市) |
ツマベニチョウ (2012年4月1日 沖縄県名護市) |
ツマベニチョウ (2011年12月5日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ (2013年10月26日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ (2013年10月26日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ (2013年10月26日 沖縄県石垣市) |
ツマベニチョウ♂ (2014年10月18日 沖縄県大宜味村) |
ねころべば血もまた横に蝶の空 テレビのNHK俳句を見ていたら八田木枯の句が放映されていた。 ぼくは時々、山頂や草原などに寝転んで青空をぼんやり眺めているこ とがある。そんな時、アサギマダラが空をゆっくり舞うように横切って行 くことがある。 青空をバックにしたアサギマダラの舞。これを見たら誰もが蝶の愛好 家になるだろう。しみじみと幸せを感じる瞬間だ。 オオゴマダラもそんな蝶だ。青空にふわりふわりと舞いあがって行く姿 はこれも例えようもなく優美だ。 「蝶の空」といえばツマベニチョウも忘れてはいけない。 青空から急降下して真っ赤なハイビスカスの花に降りたち、わずかな 時間吸蜜をすると、さっと飛び立って行く。 青空、赤い花、そしてオレンジ色の翅をもった純白の蝶。自然界の色 彩の見事さはあのゴッホでさえ描き切れない。 「蝶の空」が気になって、現代俳句協会のデータベースで調べてみたら こんな句もあった。 日暮里からむこうは蝶の空であった 大口元通 蝶の空七堂伽藍さかしまに 川端茅舎 |
ツマベニチョウ♂ (2014年10月18日 沖縄県大宜味村) |
ツマベニチョウ♂ (2014年11月27日 沖縄県石垣島) |
ツマベニチョウ♂ (2014年11月27日 沖縄県石垣島) |