クロミドリシジミ

クロミドリシジミ
（２０１５年６月７日　栃木県）

　友人が亡くなるのはつらいことだ。クロミドリの観察に出かける前の日
　新宿で急逝したＫ君を偲んで大学時代の同期の仲間１０人が集まった。

　僕は早稲田で弓道をやっていたが、Ｋ君はその時のマネジャーだった。
　一時は９０キロを超す巨体で、いつも笑顔を絶やすことがない好漢だ
　った。有能な鉄鋼商社マンだった。

　彼の奥さんは今認知症で都内の施設に入っていて、その奥さんを訪ね
　るのがこのところ楽しみな日課だった。

　たまたま会社時代の女性の秘書とランチの約束をしていたのだが、そ
　こに姿を現さなかった。秘書が携帯に電話したがまったく応答がなかっ
　た。心配して大阪にいる弟さんに連絡、急逝が分かったのだ。ベッドの
　中でひっそり亡くなっていた。

　こどももいないからランチの約束がなかったら、何日も分からない”孤
　独死”になっていたかもしれない。

　クロミドリシジミはミドリシジミのような緑色のメタリックな輝きがなく、銅
　色の翅表をしている。

　しっとりして何か喪服をまとっているような気がして、観察しながらＫ君
　のことを思い浮かべた。

　奥さんはＫ君が亡くなったことが分かっているのだろうか。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（２０１５年６月）