ミヤマセセリ
ミヤマセセリ♂ (2013年4月1日 神奈川県相模原市) |
寺山修司は異能の人であった。 詩人、歌人、俳人、小説家、評論家、演劇家、映画監督、写真家…。 数え上げたらきりがない。どれもがすばらしい才能に恵まれていた。 今でも記憶に生々しいのはあの独特の風貌と青森弁だ。 ある本に寺山のもとに、評論家の三浦雅士がしばしば訪れ激しい文 学論を戦わせた話が痛快に綴られていた。 三浦さんは弘前の出身だ。 三浦さんに会ったとき「さぞかし青森弁と弘前弁が飛び交ってすごい 文学論議だったんでしょうね」と聞いてみた。 すると三浦さんはすかさず「冗談言わないで下さいよ。標準語ですよ」 と答えた。ちょっと不愉快そうな表情だった。 それでも僕は寺山のあの青森弁が頭の中をぐるぐる回って「ほんとか なあ」と信じられなかった。 そう言えば、寺山の短歌に ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし というのがあった。 ガンの僕には 裏町よりピアノを運ぶ癌の父 という俳句も何故か心惹かれる。 寺山は「下北半島は斧のかたちをしている。斧は津軽一帯にふり上げ られている」と書いている。 ふと、春の蝶ミヤマセセリが津軽で舞い始めるのはいつの頃なのだろ うかと思った。 |
ミヤマセセリ (2022年3月31日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ (2021年3月16日 埼玉県武蔵嵐山町) |
ミヤマセセリ (2021年3月16日 埼玉県武蔵嵐山町) |
ミヤマセセリ♀ (2018年4月9日 埼玉県武蔵嵐山町) |
ミヤマセセリ♀ (2020年3月19日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♂ (2019年3月22日 神奈川県相模原市) |
落花に来たミヤマセセリ (2019年3月22日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♂ (2012年4月8日 神奈川県石砂山) |
NHK俳句を見ていたら、蝶の句があった。 蝶とまる 農一筋のごっつい掌 初蝶の支離滅裂のはしゃぎよう 蝶生まる 瓦礫の街を故郷とし 一対の蝶 いつまでもどこまでも どれも素晴らしい句だなあと感心した。 ギフチョウのところでも触れたのだが、石砂山で山道に何気なく置い たアクエリアスにミヤマセセリがやって来た。 液体に惹かれた訳ではなく青いラベルに関心があるようだった。 ミヤマセセリはオオイヌノフグリなどでよく吸蜜している。 ブルーの色彩に惹かれるのだろう。 |
アクエリアスに寄って来たミヤマセセリ (2012年4月8日 神奈川県石砂山) |
ミヤマセセリ♀ (2016年4月6日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♂ (2016年4月6日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♂ (2009年5月1日 東京都裏高尾) |
セセリチョウの仲間はガ(蛾)みたいで嫌いだと “虫愛ずる妻君”は言う。 でも、春早く姿を見せるこの蝶は違うらしい。 「なかなか渋くていいわねえ」とのたまうのだ。 ギフチョウを求めて、里山を歩いたりすると、明 るい雑木林などからこの蝶が元気よく飛び出して くる。 飛翔は活発だが、山道の土の上や、岩、倒木など に止まって、羽を休めている。 春のうららかな陽気とこの蝶が連想されて、大嫌 いな「ガ」と一線を画しているらしい。 ギフチョウ、コツバメなどと同じように年一回の 発生。春先に現れて、春が深まってくると、もう 姿を見ることが出来ない。 妻君が「渋い」と言うように、日向ぼっこしてい るミヤマセセリの羽の斑紋はなかなか味があり、 美しい。 |
ミヤマセセリ♂ (2008年3月25日 神奈川県横浜市) |
ノイマイヤーのバレエ「時節(とき)の色」を見た。 ノイマイヤーもベジャールも偉大な振付家たちは日本の 文化に強い憧憬を持っている。 「日本には季節によって特別な食べ物があるだけではなく そういった季節の料理が供される器までが四季のうつろい に則して替えられるということにすっかり魅了されてしまっ たのです」ということも言っている。 たしかに日本人の基本にあるのは春、夏、秋、冬の季節 感だろうと思う。 食べ物や桜だけでなく、ミヤマセセリやギフチョウが姿を現 すのを冬の間じっと待ち、この蝶と出会うと心からうれしく なる日本人がいると聞いたら、ノイマイヤーはきっとびっくり するだろうと思う。 |
ミヤマセセリ♀ (2011年4月6日 神奈川県石砂山) |
”ボケの連鎖”という言葉が話題になっている。 ご多分に漏れず我が家も高齢の母を介護している。いわゆる ”老々介護”である。 母の具合が悪く、なかなか自由にフィールドに出る事も叶わな いことが多い。どうしても家に篭りがちになり、ふと気がつくと、 自分も大分ボケていることに気づき、愕然とする。 それに輪をかけて今年は天気が不順で、思うようにならない。 妻に背中を押されるように、思い切って裏高尾に出かけた。 珍しく春の日はうらうらとして、瑞々しい若葉が目に染みた。 林道を歩いていくと、テングチョウ、トラフシジミ、サカハチチョウ それにミヤマセセリが飛び出してくれた。 「たまには介護の日々を忘れてわたしたちと遊びなさい」 蝶たちがそう言っているようでうれしかった。 介護する家族が家に閉じこもりがちになり、介護される人と同 じように衰えてくる”ボケの連鎖”。そうならないよう時々、時間 を作って野山を歩いて、蝶と遊ぼう。 |
ミヤマセセリ♂ (2010年4月26日 東京都八王子市) |
ミヤマセセリ (2016年3月17日 神奈川県横浜市) |
ミヤマセセリ♂ (2017年4月5日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♂ (2017年4月5日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♀ (2017年4月14日 神奈川県相模原市) |
ミヤマセセリ♂ (2018年3月23日 埼玉県武蔵嵐山町) |
ミヤマセセリ♂ (2018年3月23日 埼玉県武蔵嵐山町) |
ミヤマセセリ♂ (2017年4月14日 神奈川県相模原市) |