春の女神たち
(Photo of Luehdorfia)
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石田波郷の句に 「初蝶や吾が三十の袖袂(たもと)」 というのがある。 波郷は胸を病み厳しい闘病を続けたが、この句は昭和17年に 作られている。この前後、波郷は「馬酔木」から独立、師の水原 秋桜子を離れ「鶴」を創刊した。結婚もした。 30歳になってさあこれからがんばるぞ、という気概をにじませた 句である。 初蝶というのは春になってその年発生して来る蝶のことである。 インターネットやブログが盛んになり、初蝶の記録がいち早く流さ れる。 人によってはミヤマセセリであったり、コツバメであったりする。 それでもギフチョウと出会うと、いかにも初蝶に会えたといううれ しい気持ちになる。 この日は天気もよく、桜の花やスミレ、僅かに残ったカタクリなど にやって来ては盛んに吸蜜するのだった。 穏やかな春。 石田を「さあ、頑張るぞ」と思わせた初蝶はどんな蝶だったのだ ろうか。 (2009年4月) |
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日本にはギフチョウとヒメギフチョウという美しい蝶がいる。 どちらも春早く、桜の開花に合わせるように発生し、一月足らず で姿を消して行く。年1度、この時期だけの蝶で”スプリング・エ フェメラル”の代表的なものでもある。 「春の女神」と呼ばれてもいる。 ギフチョウというのは岐阜蝶のことで最初に岐阜県で発見された ことにちなんで名づけられた。 もっとも江戸時代からこの蝶の画が残っており、「だんだらちょう」 などと呼ばれていた。黄色と黒のだんだら模様からきているのだ ろう。 この蝶の正式な学名は Luehdorfia japonica Leech. 1889 である。 リュードルフィアというのは属名で”日本のリュードルフィア”という ことになる。 Leechはイギリス人の生物学者で1886年に日本に来て、九州か ら朝鮮、千島、北海道、本州などを歩き、「日本および朝鮮蝶類目 録」を発表した。 だから、この学名は1889年にリーチが命名した日本のリュードル フィアということになる。 |
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ギフチョウはよく花にやってくる。 スミレ、カタクリ、桜、ツツジ、キブシなどこの頃咲く花に集まって 来る。 中でもギフチョウにはカタクリがよく似合う。 最近は東京近郊ではほとんど見ることが出来ない”幻の蝶”にな ってしまったが、かっては高尾山でも薬王院の周辺、込縄、梅の 木平、木下沢などでも見られた。 多摩から丹沢にかけては小倉山、鳥屋、青野原(最近はいる)、 葉山島、御殿峠あたりにもたくさん生息していた。 時折り、林道を歩いているとカタクリが咲いている斜面を見つけた りするが、ギフチョウの舞わないカタクリはとても寂しい気がする。 ぼくが最初にギフチョウと会ったのは本厚木から入った中津川の 半原近くの杉林だった。中学1年生だった。 そう言えば、ギフチョウの大産地だった厚木近辺も鳶尾山が団地 になり、白山も桜は相変わらず咲いているが、ギフチョウははるか 昔にいなくなってしまった。 |
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「富士には月見草がよく似合う」と書いたのは太宰治だった。 その碑は御坂峠にある。 ギフチョウにはカタクリがぴったりだ。 蝶友のKさんがカタクリの咲き乱れるギフチョウの生息地に案内 してくれた。 標高200メートルくらいの丘陵地の雑木林の中にカタクリの群落 がある。歩くと踏み潰してしまいそうでもったいない。 ギフチョウがそこにやってくる。 ゆっくりと飛んできたギフチョウはカタクリにぶら下がるように止ま ると吸蜜活動を始める。 それは蝶の愛好家にとっては、まさに夢のシーンだ。 東京近郊ではなかなかこうした画のようなシーンには出会うことが 出来ないが、東北地方や信州ではありふれた光景でもある。 せめて年に1度はカタクリの咲き乱れる花園でギフチョウと会い たいものだ。 |
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