コノハチョウ


 コノハチョウ
コノハチョウ
(2016年2月22日 沖縄県石垣市)
 ジュンパ・ラヒリのことを教えてくれたのはイタリア語の教室のお仲間の
 A子さんだった。ぼくはその作家の名前をまったく知らなかった。
 「最近出た”べつの言葉で”という本はおもしろいですよ」とレッスンの中
 でA子さんが言った。
 ジュンク堂や三省堂を回ってみたが在庫がなかった。やっと浜松町の文
 教堂で見つけた。

 ラヒリは2000年に「停電の夜に」でピューリッツアー賞を受賞。長編の
 「その名にちなんで」は映画にもなっている高名な作家だった。

 ベンガル系のインド人の娘としてロンドンで生まれ、3歳の時アメリカに
 移住したラヒリはベンガル語と英語を話すことが出来るが、どちらが母
 国語かと言われるとあいまいである。日本に生まれ当然のように日本語
 を話し、日本語で物を考えるぼくと比べると、ラヒリの祖国喪失感は何か
 分かる感じがする。

 ラヒリは「この二つの言語は敵同士で、どちらも相手のことを我慢出来
 ないようだった」と言っている。

 「べつの言葉で」はイタリア語で書かれた21のエッセーと2つの短編小
 説からなっている。20年前フィレンツェを旅行した時、イタリア語に触れ
 それが救いのようになったという。今はローマに移住、イタリア語で作品
 を書いている。まるで母国語であるかのように。

 新たにイタリア語が加わって3つの言語が三角形のような均等な関係を
 つくり、初めて自分の言葉を持つことが出来たのだ。

 そんなラヒリのことを考えながら、何故か八重山で出会ったコノハチョウ
 やベニモンアゲハのことが頭に思い浮かぶのだった。 
 
コノハチョウ
(2019年5月14日 沖縄県石垣市)
 
コノハチョウ
(2019年5月14日 沖縄県石垣市)
コノハチョウ
コノハチョウ
(2016年2月22日 沖縄県石垣市) 
 コノハチョウ
コノハチョウ
(2016年2月22日 沖縄県石垣市)
コノハチョウ
コノハチョウ
(2010年3月14日 沖縄県石垣市)

  今からもう35年以上前になる。

  忙しい仕事の合間の束の間の休みを利用して石垣島と西表島を
  訪れたことがある。

  沖縄を夕方出航して、海の揺れにかなり揺られて、翌朝石垣島へ
  到着した。

  島にはまだホテルなどはなくて、港のすぐ近くに民宿があるきりだ
  った。ほんとにのんびりとしていて、島の民家も多くの家は壁など
  はなく、風が通るにまかせていた。

  荷物を置いて林道を山に向かった。

  イシガケチョウやオオゴマダラがとても多かった。

  目の前をすうっと飛んで、葉に止まった蝶がいた。
  翅を広げた蝶は鮮やかに輝き、ひと目でコノハチョウだと分った。

  初めての対面で、胸がどきどき、どきどき高まったのをきのうの
  ことのように思い出す。
コノハチョウ
コノハチョウ
(2015年5月9日 沖縄県石垣市)
 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2015年5月9日 沖縄県石垣市)
 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2010年3月15日 沖縄県石垣市)
  久しぶりに訪れた3月の石垣島はあまり天気がよくなかった。
  小雨が降り、気温が15度位まで下がる日もあった。

  それでも薄日が差す日は気温も25度位になり、林道を歩いて
  いるとコノハチョウがテリトリーを張っているのが見られた。
  ちょっと高い場所に止まるので、撮影にはちょっと困る。

  遠い日、コノハチョウを初めて見た日のことを夢のように思い出
  す。そんな思い出に浸りながら、石の上に座ってしばらく眺めて
  いた。

  なにか青春を取り戻したようで、ひとり笑みがこぼれてくるのだ
  った。
 友人のご夫妻たちと石垣島を訪れた。
 5日間天気に恵まれ、楽しい旅行だった。石垣島は新しい空港が
 オープンして、いつもなら観光客が少なくなる10月末というのに、 
 羽田発のANA直行便は満席だった。

 友人のご夫妻はダイヴィングなども楽しみ、「海の中はとってもきれ
 い」とうれしそうだった。
 観光客が増え、レンタカーの料金やホテル代がじりじり値上がりし
 ているのだという。

 逆に蝶の種類や数は島を訪れる度に減っている気がする。

 東京に帰る最後の日、いつも訪れる林道に入った。
 スミナガシが優雅に舞っているのが目に入った。林道わきの木に
 止まったのを確認して、そっと裏側に回ってみると、小さな樹液酒場
 があり、そこにコノハチョウがひっそりと止まっていた。

 翅を閉じると、本物の木の葉のようでまったく分からない。

 時々、翅を開くと独特の亜熱帯の蝶のような斑紋が見える。

 昆虫少年に戻ったように、胸をドキドキさせながらシャッターを
 押すのだった。
コノハチョウ
コノハチョウ
(2013年10月29日 沖縄県石垣市)
 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2013年10月29日 沖縄県石垣市)
 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2013年10月29日 沖縄県石垣市)
 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2013年10月29日 沖縄県石垣市) 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2015年4月6日 沖縄県本部町) 
 4月の初めに沖縄を訪れたのはフタオチョウを観察するのが主目的
 だった。それに合わせてコノハチョウにも会いたいなと思っていた。
 どちらも沖縄県の天然記念物になっていて採集は出来ない。

 コノハチョウと言えば「伊豆味」という地名が昔から有名だった。何か
 その地名には憧れのような響きがあった。

 フタオチョウ探索がてら本部町の林道を訪れた。
 越冬したルリタテハが飛ぶと、それを追いかけるようにコノハチョウが
 木立から飛び立った。スクランブルしてまた、悠然と梢に舞い戻って来
 る。

 冬を越した個体でいくらか翅の色は褪せているが、沖縄独特の鮮やか
 な色彩が目にまぶしかった。 
コノハチョウ
コノハチョウ
(2015年4月6日 沖縄県本部町)
 
コノハチョウ
(2007年3月15日 足立区生物園)

  足立区の生物園の温室で見たコノハチョウは35年前の
  思い出を鮮明に蘇らせてくれた。

  温室の中でもテリトリーを張っているのだろうか。

  2頭がしきりに空中戦をやっている。

  もつれ合うように追いかけているが、しばらくすると疲れたのか、
  木の葉の上にちょこんと止まって休憩する。

  休憩する場所も10センチくらいしか離れていない。

  温室の中で翅を休めてじっと動かないコノハチョウがいた。

  緑の葉の上に止まっているからすぐ分るが、まるで秋の枯葉のよ
  うで、自然の不思議さを感じて思わず見入ってしまった。
コノハチョウ
(2007年2月7日  足立区生物園)


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